夜明け前の道に、1人佇んでいる少女の姿。
軽く風が吹くとその茶色の髪が少し風に浮く。
黄色のゴムで1つに縛ってある髪は解けば腰ほどあるかというほどに長い。
ふと頭を上げると首に掛かっている雪の結晶のカケラのようなペンダントが揺れる。
イライラとしたように誰かを待っていた少女はその来訪に少し表情を緩めた。


「遅いです、玲さん。暑かったんですよ?」
「ごめんなさいね。ちょっと色々あって。じゃ、行きましょうか?」
「そのための鞄ですよ。」


苦笑して少女は鞄を持ち直した。
肩に掛けてある鞄と、横に置いてあるトランク。
動きやすそうな服装に、知らない人が見れば家出かと思ってしまうほどの大荷物。
少女は先ほどまでのイライラ感を拭うと『玲』と言う人物を見やる。
玲と呼ばれた人物は懐から一本の棒を取り出すと、それを軽く横に振った。


それは夏の終わりの日、まだ蒸し暑い、夜明け前の事。




























その手紙が届いたのは丁度一ヶ月前のこの日。
少女は怪訝そうにそれを見ながらも、その差出人を見てすぐに表情を崩した。


「なんだ、玲さんか。」


その手紙を開封してみると、そこには1通の手紙と3枚の書類。
少女はその表面をもう1度良く見る。
そこには確かに『様』、と丁寧な知り合いの字で書かれている自分の名前があった。
手紙に目を通そうとそれに手を出すとその手紙はボフンと音を立てて立ち上がった。


「えぇぇぇええぇぇぇええ!?」


立ち上がった。


「な、なななな何・・・、これっ!?」


立ち上がった手紙を見て、少女、は思わずそれを掴み取った。
ぐわしっ、と音がつきそうなほどにそれを掴み取るとひょい、とそれを目の位置まで上げる。
するとその手紙は、いきなり話し始めた。
それを聞くとは一瞬で落ち着いた声になる。


『驚いてもらえたかしら?ちゃん』
「玲さん・・・」


そこから聴こえてきた想像通りの声にガックリと肩を落とすと、はその手紙をそこに置く。
玲とは西園寺玲。以前からの知り合いだ。
そんな彼女が今何をしているかも知っているし、自分に何をさせたいのかも容易に予想がついた。
そこまで思うと、は苦笑する。


「十分に驚きましたよ。それで、何の用でしょうか?」
『貴女をホグワーツ日本校に招待したいのよ。魔法使いにならない?』
「結構です。魔法使いなんてものは、あの家を出たときに捨てたんですから」


そう、あの家を出たときに。


『そう言わないで。あなたの知ってる人も何人か招待したのよ』
「そんな事言われても困りますよ、玲さん。私は北斗とここでひっそり暮らしてるのに。そっちの世界に行ったらバレちゃうじゃないですか。」
『そうね、でもバレても対抗できる策も見つかるかもしれないわよ?』
「そうは言われても・・・」


がそう言いかけたとき、後ろのドアから1人の少年が姿を見せた。
顔にまだ幼さが残るこの少年は北斗。
の正真正銘の弟である。


「その声、西園寺さん?」
『あら北斗君も久しぶりね。・・・最近は、どうかしら?』
「生憎、姉さんに口止めされてるんで。んで、またそっちに戻れって言うんですか?」
『そうよ。貴方たちの力は眠らせておくには惜しい。そしてもしかしたら見つかるかもしれないでしょう?』


『「「方法が」」』


は溜息をつく。
それに北斗は幸せが逃げるよ、なんて言う事を話していた。
がそうね、と呟くとその手紙から光がすうと立ち上り、そこに西園寺玲本人の姿が映し出された。
ホログラム、とが呟く。


『だから、どうかしら?ここはまだ開校したばかりだから学年は2つしかないわ。』
「少なっ」
『そう。盲点だとは思わない?方法を探すにも、隠れ蓑として使うのも。対策として学ぶのも。』


ぐ、とは言葉を詰まらせる。
断るいい口実が、もう思いつかないのだ。
諦めたように北斗に視線を送ると、北斗も諦めたように1つ首を縦に振った。


「分かりました。いきます。でもその代わり・・・――――――――」


その時彼女が出した条件、それは。
1つは来年は北斗も同じ場所に呼ぶ事。(コレは西園寺の計算内だった)
2つめは8月31日にはもう学校に行かせろというもの。
2つ目の条件は北斗が出したものだったが、西園寺は快く了承した。
開校するのは次の日の9月1日からだが、その日1日は西園寺の部屋に泊まることになったのだ。

























「魔法使いの血、ね。」
?」
「あ、いえ。何でもないですよ?」
「そう?」
「はい!・・・まさかね?」
「・・・?」


会話を中断させて玲はの表情を伺う。
はん?と普段どおりの表情で返すと大きく伸びをした。


「さて、どんな人がいるのか楽しみですねー」


私は魔法で一瞬にしてついた学校を見上げた。
学校は城のように大きくて、土地は森のように広大で、本当に日本にあるのかと疑いたくなるほど。
トランクは玲が杖を振るとフワリと浮いて学校の、ある部屋に入っていった。
玲が指示した通りその箒の後ろに乗るとその箒がフワリと浮いた。
学校内の部屋一室に入ると、玲さんは少し躊躇いがちに私に言った。


「学校の先生の一部は、貴女の事を知っているわ」
「そうですか」


その表情が一瞬だけ強張ったのを、玲は見逃さなかった。


・・・――――――――」
「さてと玲さん、軽く案内してもらえません?」


には、と笑顔で言うに、玲は何も言うことが出来なかった。


「あ・・・」
「何?。」
「これから玲さんの事、西園寺先生って呼ばないといけませんね・・・!!」


えぇ?と口を開ける玲。
それとは対照的には真剣な目で玲を見つめていた。
本当にこの子は・・・と玲はそれに苦笑する事しかできなかった。


静かに夜が明けて、流れる雲は時間を運ぶ。
これから魔法学校の生活が始まるのかと思うと、は楽しみ半分不安半分でこの日一日を過ごした。





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