夜も明けた9月1日。この日も晴天。
は朝起きるとすぐにソファに腰掛けている女性に挨拶をした。
おはようございます、というとその女性、西園寺玲はにっこりと微笑む。
はそれに笑顔で答えると時計に目をやった。
午前7時、普段からすると起きるのは格段に遅い。
しかしそれも無理は無かった。昨日は夜遅くまで西園寺とは魔法トークをかわしていたのだから。
魔法使いの子に生まれながらも魔法を遠ざけて生きてきた。
何かを思い出させるような、知っているような。そんな感情を抱きながら彼女は昨日を過ごしたのだ。
「貴女はどこに入るのかしらね?」
「組み分け帽子でしたっけ?それを被って決めるんですよね。」
「そうよ。昨日話したとおり3つの寮しかないんだけどその人に1番合った寮になるはずよ。」
先生たちの部屋は広い。普通の生徒たちの2倍はあろうかという部屋なのだそうだ。
昨日玲さんが言っていたのだから本当だろう、とは苦笑いをしてそう思った。
1番合う寮、私にそんなのがあるのだろうか。
一瞬嫌な恐怖がの心を駆け巡ったが、それをすぐに抑えると大丈夫だと何度も言い聞かせた。
日も昇ってきた朝10時ごろ、はホグワーツ魔法魔術学校の道を逆に歩いていた。
見た目よりも数倍軽い鞄を抱え、辺りを見渡しながら歩く。
・・・と、そこに何人もの同じような年頃の少年たちが歩いてきた。
それを見つけると、よし!と草むらに隠れる。
団体が通って来るはずだからそこに混じりこんで一緒に来た様に入ってきなさいと玲に言われていたのだ。
何人かが通ったのを確認すると、はひょいと顔を出した。
(そろそろいいかな)
よ、と鞄を持って歩き出すと、そこに見慣れた人物が現れた。
正確に言えば、最初からの目の前にいたのだけれど。
「?」
「あれ?柾輝くん?」
きょとん、とその人物の名前を呼ぶと、その人物は驚いたようにを見た。
何かを言いたげに口を開き、(言葉を選んでいるようにも見えた)そのままそれを閉じる。
それを見たは苦笑した。
黒川柾樹。彼とは普通の学校で同じクラスだった。
ついでにが引っ越してからは割と家も近くて仲が良かった友達。
の事を知っている数少ない1人だ。
「何でいるんだ?」
「魔法使いになってみようかと思ってv」
クスリ、と不敵な笑みを見せると柾輝はすっとんきょんな顔をして口元に手をやった。
「ま、何とかなると思うよ。・・・で、つばさサンたちは?」
「はぐれたんだよ。っつーかなんで翼の話がすぐに出て来るんだ?」
「だって仲が良いでしょ?」
柾輝はからかっていったつもりだったのだがはあっさりと、しかも当然のこととでも言うようにそう答える。
翼とは前の学校でも仲が良かった。
それを考えてからかったのにまったく目の前の少女はそれに堪えた様子が無い。
(まぁ、らしいか。)
柾輝はくく、と笑うとの鞄を持ち上げる。
あ、とはそれを取ろうと手を伸ばすがなにぶん身長が足りていない。
柾輝はその軽さにおいおいとを見た。
がしぶしぶと(誰にも言わないという条件付で)玲と先にこっちにきていた事を話すと、柾輝はどうりで軽いわけだと納得する。
そして視線をに落とすとそういえばというような風で口を開く。
「なぁ、寮があるって翼に聞いたんだけど、どんな風に分けられてるんだ?」
「あ、それなら昨日玲さんに聞いたんだけど確か、性格。グリフィンドールは勇気あって、なんでもやってみるって感じで。
レイブンクローは頭良くて、きちんとしてる感じ。スリザリンは確か、」
「ほんのり悪が漂うんだろ?」
「翼」
「つばささん」
よ、と柾輝が言うのを翼はあぁ、と少し不機嫌な風で答えた。
しまったな、と言う様に柾輝は頭を掻いた。
前の学校からずっと、と翼は仲が良かった。
だからきっと、あれだ。
(焼かれてるな・・・コレ)
口を引きつらせて翼を見やる柾輝に気がついていないのか何なのか、注目されてる本人は不機嫌そうにの隣を歩いていた。
は少し首を傾げると口を開く。
「つばささんもこっちに来てたんですね。どうして教えてくれなかったんです?」
「玲に止められてたからだよ。なんだか知らないけどにはここにいる事言うなって。」
何でかは知らないけどね、と翼はそう付け足す。
がそうなんですか、と相槌を打ったとき、丁度良く学校が見えてきた。
「城だな」
「城だね」
「学校だよ」
3者3様の言葉を呟くと、目の前の扉が音を立てて開いた。
は一度目は玲の箒に乗せて貰って彼女の部屋に入ったため、この扉から入るのは初めてだ。
柾輝はいつもと大して変わらないような声ですげぇと呟いた。
開いた扉からすぐ覗くのは赤い長い絨毯。
周りにはゆらゆらと揺らめくキャンドルがたくさん飾ってある。
広い部屋は学校の体育館の比ではない。
あまりにも広いその部屋はこれだけの人数では少し寂しいくらいだ。
は揺らめくキャンドルを見て顔を綻ばせている。
それを見た翼は今までの不機嫌だった表情を崩した。
ほんの少し、機嫌が良くなったようだとそれを見た柾輝は安堵の息を漏らす。
その時、バタンと扉が閉まった。
「みなさんこんにちは!」
そこに、西園寺玲副校長の声が響いた。
その声にが気を取られた瞬間、自分の居場所が変わっていることに気がついた。
「・・・あれ?」
荷物、マサキくんが持ってるのに・・・。
そう思いながらも、私は仕方なく前の玲さんの話を聞くしかないなと前を向いた。
「1年生の皆さんはじめまして!私は西園寺玲。この学校の副校長です。
2年生の皆さんお久しぶりです!では今から1年生の組み分けをしたいと思います。
1年生は呼ばれた人から順番に前にある帽子を被ってね!じゃあ、夏樹莢さんから行ってみましょうか!」
むちゃくちゃな。
はそう思いながら前の台に緊張しつつ上っていく女の子の姿を捉えた。
女の子もいてよかったな、と思いつつその子をじっと見る。
イスに置いてある帽子をひょいと持ち上げてそれを被るとその顔は殆ど隠れてしまっている。
・・・大きい。
あれが組み分け帽子か、と彼女は思いつつ辺りを見渡した。
揺らめく炎が浮いているのを目で追いながら、は軽く微笑んだ。
この炎が、いやに綺麗だと思った。
back
top
next