あまり話せなかったから。
今日なら話せると思ったんだ。
今日からなら、って。
歓迎会と言うのはまぁ簡単に言ってしまえば寮内紹介だ。
俺たちレイブンクローも自己紹介がメインになっている。
俺が自己紹介した後は金髪が、その次には吉田、三上、山口がそれを終わらせる。
その次にはなんとなくというか流れと言うか。山口と仲の良い横山がのんびりとした口調で自己紹介を終えた。
純血だの、ハーフだのマグルだのと、どこの寮も食事をしながらの自己紹介に、自然と話も弾んでいる。
「じゃ、次は。できる?」
「え!あ、あぁ、はい。」
そのままの流れで、俺の隣に座っているに話を振ると、は立ち上がった。
かけてあったペンダントがチャラと音を立てる。
「です。えぇと・・・マグルの学校に通ってたのでこっちの事はよく分からないですがよろしくお願いします。」
それだけ言うと、はストン、と腰をおろした。
こんなのでいいんでしょうか?と首を傾げて言うに、俺は1つ頷く。
「じゃ、次は柾輝と杳。」
「何で一緒くた!?」
「いいだろ、別に。ホラ。」
「・・・黒川柾樹。とそんな変わりねぇけど、マグルのほうでは翼たちと学校が一緒だったから簡単にはこっちの事も理解してるつもりだ。」
「棚谷杳です。向こうではの保護者役でした。みなさんが怪我しないように見張っててくださいね!」
ど、っと笑いが起きた。
杳さんの言い方がおかしかったんですよ!とが顔を赤くする。
そんな言い方をしたら私がいつも怪我をしてるみたいじゃないですか!?といいながら、だ。
俺は溜息をついた。
なんでこんなの事を気に掛けてるのか分かったものじゃない。
何か忘れてそうな気がするのに、思い出せないような感覚。
それを今日はに聞こうと、思っていたはずなのに・・・―――――――――――――。
「姫ぃさん?」
「ん?あ、悪い悪い。次は・・・―――――あぁ、俺もわかんないから順番に言ってくれる?」
「じゃ、俺。上原淳。ハーフです。クィディッチが楽しみなんで是非教えてくださいっ!」
「桜庭雄一郎です。えーと、マグルなんで魔法のこととかよく分からないけどよろしく。」
「日生光宏、ハーフだけど魔法使いの世界に居た方が長いのでそれなりに魔法は理解できそうな気がします。よろしく!」
阿部、不破、天城も簡単に自己紹介をする。
結局殆どはクィディッチのコトについてか、とまぁ予想できた事を心の中で呟く。
んじゃ、まぁ各自適当にやってと言うと、がひょいと俺の前に顔をのぞかせた。
「・・・・・!?」
「つばささん、調子悪いですか?」
「そんなことないよ。ほら、も食べなって。」
「・・・そう、ですか?まぁ、食べますけど・・・」
心配させてどうするんだよ、と内心自分自身を小突く。
はぁ、と軽く息をつくとそこら中で、もはやクィディッチの話が始まっていた。
「いくら何でもこの量は多くないですか・・・?」
私は最初に言ったのと同じような言葉をもう1度呟く。
皆が食べているはずなのに、どんどん夜に近付いているはずなのに、何故か料理は増えていく。
何故皆はそんなに食べれるんだろう。
「多い?」
「はい。何で皆さん食べ続けられるのか・・・」
つばささんの言葉に苦笑してそう答えると、多いかな?と首を傾げられた。
杳さんも結構な量を平らげているのが横目で伺える。
やっぱり多いと思うんだけどなぁ、と同じ言葉を心の中で繰り返して私はグラスに手をかけた。
「なぁ、チャンだっけ?」
「はい?そうですよ、えーと・・・ミカミ先輩。」
「あたり。呼び方・・・でもいいか?」
「構いませんよ。」
「はマグル?」
「あー・・・んー・・・えー・・・と。」
返答に詰まる。
マグルでは、無い。ハーフでもない。
けれど純血と言うには自分はあまりにもこの世界、魔法の事を知らなさ過ぎる。
(さて、どうしたものでしょうか、ね?)
は困ったように笑いながら目の前の三上を見た。
三上はその顔を見て眉を顰めると左手をパタパタと横に振る。
「ま、いいや。そんなんどーでもいいしな。それにさっきからウチの姫さまが睨んでるし。」
「姫・・・?」
この寮には私と杳さんしか女子は居ないはずで、杳さんは少し離れた席で柾輝くんや淳くん達と話してて・・・。
「な、椎名」
「三上。俺を怒らせたいの?」
「まさか。天下無敵唯我独尊の椎名翼姫を怒らせるなんてコトは。」
「覚悟しとけよ三上。」
キラキラと輝かんばかりの笑顔でそう言った翼に、は少し安心した顔を見せた。
(よかった、少し元気が出たみたい。あの、ミカミ先輩のおかげだなー)
その顔に、三上は自慢げに翼を見、翼はまた押し黙る。
(・・・あれ?)
「み、ミカミさん?」
「、あとで俺の部屋来ねぇ?」
「・・・なんとなく危なそうなので結構です。」
「しゃぁねぇなー・・・そだ。椎名、こいつ紅留に後で紹介していいか?」
「相坂に?いいけど今日はもうそんな時間無いよ。」
「あん?今からでもいいだろーが。」
「・・・、迷惑をかけないように。」
「ごめんなさいつばささん、話が見えないんですけど・・・!!」
翼は寮長なのでこういう席で寮テーブルから離れる事は許されない。
三上は席を立ってのほうに回ってくると、その手をとって立ち上がらせた。
一瞬翼の顔を伺い見ただったが、その顔が特に変わりのない事を確認するとほっと胸をなでおろした。
(あれ?どうして私こんな事思ったんだろう・・・)
その心に疑問を抱きながら、は三上に連れられるままにその場を立った。
先ほどの青い旗とは打って変わって情熱的な赤い色の旗のテーブルに連れてこられたは行き場の無い視線を漂わせていた。
(みんなネクタイの色が違うし・・・どこを見れば?というかミカミ先輩、どこへ!?)
あうあうとなんとも言い難いおろおろとした様子のに三上は苦笑を浮かべた。
その顔はいかにもこいつは面白いと言いたげで三上の事を良く知る同学年の人々からよく注目もされている。
三上はざっと辺りを見ると1番前のテーブルへと向かう。
通る途中で、は後ろを振り返った。
「どうした?」
「あ、いえ・・・」
(今、誰かが私を見て驚いたような気がした・・・けど、気のせい?)
緑色の旗がはためくその下のテーブルでは1人の女子が目を見開いてを見て呟いた。
「見間違いじゃなかった」
は前を向くと首をかしげて三上に案内されるままに足を進めた。
逃げるしかない、と。何度言い聞かせてきただろう。
そしてそれをどうして自分は忘れてしまっているのだろう。
心のどこかで誰かがそう問いかけていた。
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