夕焼け空に響いた「解散」の声がかかるまで
彼女のことが頭から離れなかった
空色音楽室3
「事故だぁ?」
「そう。知っているのは笠井くんと克朗くんくらいよね」
三上先輩の声に、さんは頷きながら返す。
三上先輩と誠二はの左手を凝視し、は気まずそうにタオルを畳んでいる。
今日は抜きで3軍のメンバーに片付けをしてもらい、俺たちは部室に鍵をかけた。
でもピアノ弾いてるのはちゃんなんだよね?と誠二が聞けば、は片手だけでねと返す。
パイプ椅子に座って畳んだタオルを重ねつつ、は左手をぎこちなく動かす。
「それか」
「・・・はい」
三上先輩が目を細めての目を見れば、その視線を真っ直ぐに返した。
そして状況を話せよ、と三上先輩が言うと頷いては話し出した。
あの日の夜、ここからは少し離れてますけど・・・ほら。大きな交差点ありますよね?
コンビニの帰りにあそこを通ったんです。暗かったのでもう10時くらいだったと思いますけど。
青信号になって渡ろうとしたら右側から赤い車がすごいスピードで来て。
まずいな、と思ったときにはもう遅かったみたいです。
気がついたら病院で・・・母と父が泣いていて。
手足頭と包帯ぐるぐるまきだったんですけど、その中でも左手だけ違和感があって。
お医者さんに呼ばれて行ったら、もう左手は動かないだろうと。
そしたら姉さんが来て、武蔵森に来ない?と。
そこまでは聞いてねぇよ、と三上先輩が言うとはあぁそうですね、とだけ言って俺を見た。
俺は大丈夫だと1つ頷く。三上先輩は怖くないよ。むしろヘタレだから。
それが通じたらしく、も頷いた。
「で、でもさ。犯人に治療費もらって手術とか!」
「藤代」
「だってキャプテン!」
「無理なのよ」
半泣きの状態で言う誠二に諭すようにさんは言う。
どうして!と叫ぶ誠二をうるせぇと三上先輩が殴る。
何でこの2人は漫才やってるんだろう。俺は溜息をついた。
もさんも言いにくそうにしているから、俺が言う。
「犯人、捕まってないんだ。」
「・・・え?」
「あァ!?」
先輩も煩いじゃないッスか!と騒ぐ誠二を諌める事もせず、三上先輩は捕まってない?と俺に聞き返した。
俺がそれに頷くと何かを考える風で。
キャプテンがそれを不審に思ったのか何かあるのかと聞いたが『なんでもねぇよ』と返しただけだ。
ただその後俺に聞こえた言葉は『確信がねぇ』と言うもの。
三上先輩、何か知ってるんだろうか?
「だからここの学校の人が前の学校での私の音楽での評価を聞いて話し掛けてくるのがすごく怖くて。」
「けどそんなモンはずっとついてくるだろうが」
「三上先輩!」
三上先輩の言葉を誠二が止めようとする。
さんは何も言わずにそれを見ていた。
はそんな事は分かってると続けて、顔を上げて俺を見た。
「でも私には笠井との約束もある。」
「、それは」
もういいって。約束を忘れないでいてくれたことが何よりもうれしいことだったのだから。
そうさっきも言っただろ?と言うとはそれもそうなんだけど。と。
そしてこの学校に来て久しぶりの笑顔を見せた。
それは泣き笑いだったけれど俺たちの心を動かすには十分。
それに何よりも私、とが続けるのに何秒もかからなかった。
「やっぱり音楽好きだから」
これは彼女の強さ。
そして儚さであり弱さでもある。
1つの事に縛られて動けない、彼女の。
外が暗くなってそれは俺の心にも静かに影を落とした。
朝練が中止なんて珍しい。
俺と誠二は寮に帰ることもせずにそのまま教室へ向かった。
外は快晴、日差しが辺りを照りつけている。
武蔵森は私立だ、さすがというか何というか、全教室冷暖房完備。
でも朝から全室がかかってる訳じゃなくて、朝早く来た人がクーラーを自分でつける方式。
誠二が一番乗り!といいながらドアをあけた。けれど俺達が教室に入るともうひんやりと涼しかった。
「なーんだ。一番じゃないじゃん。タクー」
「はいはい。珍しいね。この時間より早く来てる人なんているんだ」
「ちぇ・・・って。あ!タク!ちゃんじゃない?」
「でも来たらそのまま音楽室に行ってると思うけど」
「あ、それもそうか」
じゃぁ誰だろう?俺は鞄の置いてある席の名前を見る。
・・・誰だっけ?誠二に聞くけどどうもぴんと来ないらしい。
まぁいいか、と席に座って誠二と話し始めようとしたその時、教室のドアが乱暴に開けられた。
「笠井!!」
「三上先輩?」
驚いてその方向を見ればそこにいたのは三上先輩で、誠二と2人して顔を見合わせる。
「事故の日にちは!」
「・・・え?」
「の事故!何月何日だ!」
「7月2日です、けどそれが?」
「解けた・・・」
その言葉に俺はなんですか?と聞き返す。
三上先輩は俺だけ呼んで、誠二に聞かせないように少し離れた廊下まで出ると、誰にも言うなと言って壁にもたれた。
「落ち着いて聞けよ?俺犯人分かった。」
「はぁ!?」
何を突拍子も無い事をと俺が言うと、三上先輩は本当だよと頭を掻く。
とりあえずそれを信じて話を促すと周りを気にしつつ溜息をついた。
そして三上先輩は話し出す。
「まず言っとくと俺はその日その時その交差点にいたんだよ。
んで、事故を見た・・・けど事情聴取が面倒だからすぐに帰ったんだよ。
事故を見たって言う証拠は赤い車が事故を起こしたって知ってることと、
渋沢に頼まれてコンビニにいったってことだけだ。なんなら渋沢に聞け。
で、帰ったらウチの生徒が事故を起こしたのを金でもみ消すとか何とかって親っぽいのが言ってた。
教師がいて事故の事話せとも言われたしな。まぁバレてんならと思って話したけどよ。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。その事故を起こした人がうちの学校って、でも」
「あぁそうだよ未成年だ。だからこそ親がそういう事やってんだろ。
で、だ。俺は事故った赤い車のナンバーを覚えてたからその車は誰の保有かも調べたんだよ。したらこの学校の生徒の親でビンゴ。
まさかこんな近くにひき逃げ犯がいたとはな。ってことだ。俺が最近練習に遅れて行ってるのもそれが原因。」
「じゃあ犯人に治療費払わせることも!」
「できるな」
俺は三上先輩の言葉に目を見開いた。
誰がやったか知らないけど犯人を問い詰めることも出来るなんて。
ここ武蔵森の生徒だろうが犯罪は犯罪、問い詰められるだろう。
俺が三上先輩を見ると三上先輩は小さく「確信が無かったんだよ昨日は」と申し訳なさそうに呟く。
これを教えてもらっただけで十分ですというと最後まで付き合うぜと言ってくれた。
「タク!」
「笠井!!三上!!」
俺がひと安心したのもつかの間、誠二と渋沢先輩までが走ってここまでやってきた。
三上先輩がどうした?と渋沢先輩に聞くと、渋沢先輩はあぁ、と息を整えた。
人気の無い廊下に俺たち4人。知らない人が見たら一体何事かと思うだろうな。
「今下に何か音楽関係の人っぽいのが来ててー・・・えーとちゃんが大会に出る約束があるからって」
「誠二落ち着いてよ、意味がよく・・・」
「つまりだ笠井。俺にもよく分からないが何か・・・音楽の大会だろうな。
それにさんが出ると言うことで参加届を出しているらしい。それでここの音楽部は出ないのか?と」
どういうことだ?がそんなのを出す?
まさか。一度はピアノが出来ないかもしれないと本人が言っていたほどだ、それで大会になんて。
しかもそれは事故を起こしてからの参加登録だったらしい。
なら尚更、あのがそれを言うわけが無い。
『世界にいけない』と泣く彼女が大会になど、出るわけが無いじゃないか。
「そんなものには出ませんよ」
キッパリと言い切った俺は音楽室を目指して歩いた。
あの短い黒髪の女の子。音楽室に入ってきて早々私に紙を押し付けた。
何?これ。
私は眉を寄せて差し出された紙を受け取った。
「・・・これ・・・」
「今度ある音楽の大会です。これ、貴女の名前が登録されています。出るんですよね?」
この時期有名な音楽の大会。ピアノ、トランペット、クラリネット・・・合奏。
その他もろもろの楽器の優等生のような人が出る、大会。
出られるのは参加表明を出した人の中でも優秀な人物だけ。
私はこれに参加表明を出した覚えは、無い。けれど確かにこれは私の名前。
誰かが勝手に出したって事?
「楽しみにしてますから」
「・・・ちょ」
待って、と言おうとしたのを留める。何か違和感感じまくりなんだよね、あの人。
そのまま音楽室を出て行くあの子を見て、少し考える。
どこかで見たことある気がする、んだけど。でも。自信無いし。
それに・・・どこ?
私が首を傾げたその時、ガラッと言う音がして、笠井が入ってきた。
昨日の今日、あー・・・泣き顔見られたんだよね、恥ずかしい。
「!今下に」
「知ってる。大会でしょ?」
「・・・出したの?参加表明」
「まさか」
俺が早口で言うのを遮って、はサラリとその言葉を言う。
知ってるなんて思ってなかったから多少驚いた。
さっきここから出て行った女子が教えたのか?
「。犯人わかったぜ」
「犯人、て」
が突然の三上先輩と誠二の登場に驚く。
そしてその言葉にも。渋沢キャプテンはここには来ないみたいだ。
は犯人が分かった、何て『まさか』。そう思ったのだろう。
『警察だってこのひき逃げ犯人は捕まらないだろうって言ってたのに。』
きっと、そう思ったんだ。俺だって思ったから。
「でも犯人捕まえたところで」
「ちゃん!犯人許すの?」
「許すも許さないも、その人が事の重大さ分かってないと意味ないし」
「、だけど治療費払わせることくらいは出来るだろ?」
「笠井・・・」
自分自身よりも自分の事を心配してくれる笠井を少し驚いた目で見る。
んー・・・と暫く考えて、そうだねと呟いた。
日本の医者には治せないって言われてたから諦めてたんだけど・・・。
ここお金持ちが通う学校だしね。(うちはお金ないよ)
もしかしたら。
それに事故も誰かは知らないけどわざとやったんじゃないと思うし。
正直分からないけど、でも売られた喧嘩は買う。
「で、結局は大会に出るわけ?」
「私は・・・――――――――――」
窓から入ってくる朝の光ですら今の自分には味方に思えて。
何もかもが自分の味方だとしたらこれも1つの追い風だ。
久しぶりに自分の意思で笑うと私はその言葉を口にした。
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あとがき。
だんだん長くなっていく・・・おかしい。
難しいって言うか、短く纏めようとすると説明足りないですかね?
感想などありましたらメールやBBSでどうぞ。