走ってくる音を聞いてすぐに誰だか分かったわ。
でもゴメンネ、知ってたの。
大切な大切な妹の怪我、誰が原因か、ってこと。
空色音楽室4
音楽専任の先生と、偶然居合わせた桐原監督と私。
いきなり『例』の音楽の大会の事を言われて正直驚いた。
上のほうで克朗君の声が聞こえた気がしたけれどそれはあえて聞かなかった事にしていたの。
藤代君の声が微かに聞こえたときには、わかったんだと妙に気が重くなったけれど。
「さんはでるんですよね?」
「、妹は・・・」
「分かりません。私は私、妹は妹なのですべてを把握しているわけじゃないです。」
「彼女はきっと出ますわ、それでウチの音選ですが、是非・・・」
ミンミンと蝉の声が響く夏の朝。
(の何も知らないくせに勝手に決めてるんじゃないわよ)
音選の専任教師の高い声が響いて大会のお偉いさんと何かの手続きを済ませている。
(くだらない)
は桐原監督を仰ぎ見た。
「いきなりの来訪で部を休まざるを得なくなった」
「それは失礼しました。」
「次回からは一本の連絡でも入れて欲しいものだな」
良くぞ言ってくれました。は1つ頷く。
大会関係者のような人たちは都大会常連校の邪魔をした罪悪感を少しは感じたようで何人かが互いに顔を見合わせている。
大会関係者の1人と目が合った、この人は、あの時の。
それから何分か睨みあっていると、色々な手続きが終わったようでその人たちは帰っていった。
桐原監督は最後までその人たちを好意的には見なかった。
の事を知っているのは先生では桐原監督だけで、他の先生はの怪我の事をまったく知らない。
・・・むしろ、すべてを知っているのは私と桐原監督、そして加害者だけだ。
音楽専任の先生は少し浮かれたように職員室へと戻っていった。
浮かれてていいんでしょうか?そんなんじゃ本番恥じかきますよ、と心の中ではき捨てる。
「監督!!」
「・・・克朗君」
わざわざ下まで降りてきたんだ、と思いながら汗で湿った髪をかきあげた。
監督はもう職員室へ行くからと方向を変えたが、ITルームが開いているとだけ言い残していった。
私はありがとうございますと言うと彼と一緒にその場へと歩いた。
途中克朗君は怪訝そうに私の顔を伺い見たけれど、私はそれに気がつかないフリをした。
(どれだけ嫌いだと思われてもいい)
隠していたのは私なのだから。
例えそれが直接彼に損害があるわけでなくても『私』という人間には少なからず絶望する。
今だけでいい、だからこの瞬間までは幸せでいさせて。
私は一度目を閉じて、それからITルームへ入った。
「、実は分かったんだ。あの・・・」
「知ってたわ。の左手を壊した加害者の名前でしょう?」
「なっ・・・?」
克朗君は目を見開いた。
ITルームはもう冷房がついていたようでひんやりと涼しい。
汗で濡れた顔が冷やされていく。
「でも、私がバカだったんだわ」
「・・・?」
「あの子はが怖かっただけだった・・・!!」
俺はの言葉に耳を疑う。どういうことだ?
椅子を引っ張り出してきて、それにを座らせると向かいに自分の席も用意して腰掛ける。
は1つ呼吸をして話し出した。俺の知らなかった事故の後を。
事故を起こした子はすぐに救急車を呼んだそうよ。逃げる車の中から。
つまり事故を起こした後はそのままを見捨てて車で逃げたの。
後から罪悪感を感じたんでしょうね、『父親』の働く病院へ電話をしたんだわ、『事故を起こした』と。
その父親はを治療した後、家の親にこう言ったそうよ『犯人は逃げたそうです』。警察も出てきていないのに。
まぁ言っても意味無かったわね、そこの母親は警察のお偉いさんらしくて。
『犯人は捕まらないでしょう』すごいわよね、家族全員でこの事件をもみ消した。治療費は保健からおりる、損が無いわ。
それでも疑いを持っていた私にあの人たちは言ったわ。
『悪気は無かった』んですって。その女の子は車の免許なんてもちろん持ってなくて、それでもひき逃げしたことには変わりは無くて。
でも悪気はなかったんですって。本人じゃなく親がそう言ったのよ。
しかも私に。どうして本当の事をに言わずに私に言うの?
・・・それと同時にその親たちは言ったわ。
『もし君がこの事をばらせば学業特待生の君はどうなるか。君の妹は音楽特待生と言うことで武蔵森に入れよう。」
脅されたわ。その人はこの学校のPTAもやっていて特待生の審査をする役割でもあった。
それが無くちゃうちはこんなところに来るお金の余裕、ないもの。
仕方なくその条件をのんだの。
「今思えば、あの条件を蹴ってでもバラしてしまえばよかった・・・」
その瞳からは涙が溢れていて、どれだけの後悔とともにここにいるか知れなかった。
それでも俺は何もすることが出来なくて、ただ聞くことしか出来ない。
こんなにも俺は無力だったのかと自分の呪いさえする。
いつからそれを抱えていた、いつからそれを思っていた。
どうして俺はそれに気がつかなかったんだと。
今更思ったって仕方の無いことだと言われるかもしれないが。
「後でその子を調べて分かったわ。
その子も音楽特待生で『武蔵森』からの出場で期待されていたのに出る大会出る大会すべてが優勝をもらっていた。」
そしてあの夜のことももしかしたら。
そう考えてしまった。それが本当であれ嘘であれ、それに考えが辿り着いてしまう私はどれだけ醜い。
本当の事をにばらさなかった私はどれだけ酷い。
この事をばらさなかったのは自分がここで学べなくなるからだと気がついた私は、どれだけ。
「そんな事は無い。俺は、少なくとも俺はの異変に気がつくことですら出来なかった。
は悪くない。その生徒の親も何を考えているか知れない。だから、泣かないでくれ。
はちゃんとさんのことも考えている・・・!!それに俺は。がここにいてくれて嬉しいんだから。」
「かつろ・・・く・・・」
泣いてどうする、泣いてどうする。私が泣いてどうする。
そう思いながらも、私はやっぱり克朗君に甘えてしまうのだ。
もいつかこういう人に出会えるのだろうか。
そしてこうして甘えることが出来るようになるのだろうか。
「出るよ」
その言葉に、1番驚いたのは誰でもない笠井。
「っ!?」
「え?」
「出るの?」
「うん。売られた喧嘩は買わないと」
笠井はすごくすごく驚いて、でもそれから『が決めたならいいけど』と言ってくれた。
それがとても嬉しくて、嬉しくて。
私は今日、今までで1番の笑みを見せたと思う。
空はとても青くて風も私を応援している。
何もかもが味方に思えた今日こそ私が動かないといけない日だとおもうから。
誰かに頼ってばっかりの自分はもう嫌だから私も動こう。
鐘が鳴って、HRの始まりを告げた。
何日か後になる。もうすぐ大会の日だ。
「今日は調子が悪いからって事で休ませてやるよ」
「何のつもりですか三上先輩」
俺は三上先輩を半ば見上げるようになりながら問う。
三上先輩は俺の肩をポン、と叩くとニヤリとした笑みを浮かべた。
何ですか、と問うと大会はすぐなんだろ?と。
そりゃ1週間後ですけど。だからといって三上先輩がこんなに親切なんておかしいじゃないですか。
放課後の2年の教室前。まさか三上先輩が来るなんて思っても見なかった。
しかも休め。
ちょっと、って三上先輩熱でもありますかとかって疑いたくなるのも仕方ないと思う。
「元気つけてやれば?」
「三上先輩・・・!!」
だけど三上先輩はいつものあの意地の悪い笑みではなく少し躊躇ったような苦笑で俺を送り出した。
そんな顔をされて、俺が行かない訳が無いだろう?
三上先輩にありがとうございますとだけ告げて俺はそのまま廊下を走った。
に会う為に。
音楽室からは繊細なメロディが綴られている。
奏でるのではなく、綴られる。
それはまだとてもじゃないけれどあの大会に出せる代物ではない。
それでも『どこにも無い音楽』は確かにによって作られたピアノ曲。
「笠井?」
「入るよ。」
ノックもしていないのに俺に気がついたんだろうか?
勘ってヤツかな、分かっちゃったんだよね。とは言うと鞄の上にあるシャープペンシルを取った。
はあの日から学校の時間は授業中意外殆ど音楽室にいる。
新しい曲を作っているらしい。
左手をカバーできるような曲にしたいから、と言って五線に並んでいる音符は確かにそれに見合うもの。
は窓を締め切ってただひたすらにピアノと向き合っていた。
ただ、それは俺が以前見たときからまったく進んではいなかった。
「、楽譜・・・」
「ん。実は詰まっちゃって。どうにも想像力が無いみたいだよ。まいったなぁ・・・」
苦笑している彼女に、俺のとっておきを教えようと思った。
「、ピアノを下の緑の線にずらして窓を全開にしてみな」
「え?でもピアノに直射日光が」
「少しなら平気だから、早く」
「・・・うん」
1cm程ずらして俺の言ったとおりにしたとたん、音楽室が空色に染まった。
「・・・っ!!」
「どう?」
「すごい・・・!」
まるで自分が空の中にいるようだと思う。
笠井はずっと前からこれを知っていたんだ。いいなぁ。
空の中に浮いていて、自分が自分じゃないみたいで。
私の頭の中にいろいろなものが入り込んでくるようだった。それ程にこれはすごかったんだ。
目の前に広がる青青青青青。瞬きがもったいないとすら感じてしまう。
私は慌てて思いついたとおりの曲を新しい五線に書きなぐった。
それは試行錯誤の末、何てモノじゃなく思いついたものでもないんじゃないかと思う。
『それ』はずっとずっと笠井の中にあった曲だ。
笠井の中にあったものがこれを通して私の中に入ってきたんだ、とそういわざるを得ないほどにあっという間に書き上げてしまった。
概存のものでないのが不思議なほど、だ。
「、これは俺のとっておき。この音楽室は俺がサッカーを取るかピアノを取るか本気で悩んだ場所で、
この空を見た瞬間に悩んでたつっかえが取れた感じがしたんだ。それで俺は1つを取った。も何か決まった?」
「書けたよ。これ以上は無いってモノが」
空は私に何かを与えてくれた。
笠井がくれたチャンスは私、きっと掴んだよ。
本当に、笠井がいてよかった。笠井がいなかったら今の私はいない。
気が付くといつも傍にいてくれて、私は笠井に頼ってばかりいる。
きっと私は笠井のことが・・・―――――
それは口に出せば笠井はそれに答えてくれる気がする。
だけどそれはきっと同情から来たもので本当の意味じゃない。
私の欲しい意味の答えはきっと・・・。
「私の実力、笠井にも見せてあげるよ」
気が付いちゃいけない。
私はそっと開きかけた箱の蓋を閉じた。
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あとがき。
わぁ、主人公さん、気づいたみたいですけど閉じてしまいましたね。
あと2話で終わる予定です。
春休み中には終わると思うのでよろしくお願いします。
・・・また文章長くなってるよ。